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2024年12月23日2025年1月18日
着物には紬や絣など様々な種類がありますが、全国各地の産地によって、風合いや柄などの特徴が異なります。
沖縄の着物は「琉球絣」と呼ばれる絣なのですが、どのような特徴の着物なのかあまりよく知らない方も多いでしょう。
ここでは、琉球絣の柄や特徴、製造工程について紹介していきます。
琉球絣から派生した織物についても触れているので参考にしてください。
目次
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琉球絣とは
琉球絣とは、沖縄県南風原町(はえばるちょう)で生産している絣柄の絹織物です。
絣はインドを起源とした織物で、琉球王府の大交易時代である14〜15世紀に沖縄に入ってきたとされています。
沖縄王府に収める貢納布として織られるようになりました。
南方系の絣をルーツとした幾何学模様が主体となっている琉球絣は、琉球の気候や風土に合わせて進化を遂げ、大正時代に本格的に生産されるようになりました。
主に絹糸が用いられており、染料には草木や化学染料を使使用しています。
すべての工程は手作業でおこない、手投杼(てなげひ)や手くくり、真芯や絵図の手擦り込みなどを要件に制作される伝統的工芸品です。
琉球王府の絵師が作ったデザイン帳「御絵図帳」の図柄を織物に完成させたもので、図柄は実に600種類以上に及んでいます。
絣柄の手織物は沖縄県各地にありますが、南風原町で生産されたものだけが琉球絣と呼ばれる織物です。
南風原町は沖縄本島南部の中央部に位置する町で、琉球絣だけでなく南風花織など織物の町としても有名であり、織物工房が集まっています。
琉球絣の歴史
日本全国に絣を特産品とする地域がありますが、その原点と言われているのが琉球絣です。
そんな、日本の絣のルーツである琉球絣は、遥か昔に南方との交易により沖縄に伝わった技法なのをご存じですか。
歴史に翻弄された沖縄と琉球絣の歴史について紹介します。
絣技法の伝来と琉球王府の政策
そもそも、琉球絣は沖縄発祥の技法ではありません。
絣織物が沖縄に伝わったのは、インドや東南アジアとの交易を通じて14〜15世紀だったとするのが定説です。
伝来した技法は沖縄県各地に伝わり、独自の織物として発展しました。
さまざまな模様のある琉球絣ですが、実は一般の人たちは柄の入った着物の着用は禁止されており、着用できる着物は無地か縞柄のみに限られていました。
そのため、当時の琉球絣の製造は税金の代わりに沖縄王府に収める貢納布として作られていたのです。
また、600種類以上もあるとされている琉球絣の模様は、琉球王府の絵師がデザインの原案である「御絵図帳」の図柄を織物に完成させたのが元となっています。
織物生産は政策の一環でもあったと言えるでしょう。
隆盛を極めた大正から昭和初期
王府時代には、図案入りの絣の着用は身分の高い人にしか許されていませんでした。
沖縄の一般の人達が着用できる着物の柄には制限があり、無地か縞柄だけだったのです。
しかし明治時代になると琉球王朝が滅亡し、身分による服装制限がなくなりました。
これにより琉球絣は商品化され一般の人たちにも広がり、品質の向上へと繋がります。
現在、琉球絣と称されるものは南原原産のものに限られています。
織物の産地である南風原町で織物生産が本格的になったのは明治から大正時代にかけてです。
南風原町内の学校で織り子を養成するようになり、外部から講師を招くなどして産業化に成功しました。
また、昭和初期には品質検査の導入や原料の一括購入などもおこない、南風原町の織物産業は沖縄県でも屈指の規模を誇るようになったのです。
第二次世界大戦からの復興
沖縄は長い間歴史に翻弄されてきました。
戦争が始まると織物資材の供給が止まってしまい、織物工場は閉鎖を余儀なくされました。
また、琉球絣の産地でもある南風原町は、第二次世界大戦での激戦地であったため琉球絣の生産は途絶えてしまったのです。
しかし南風原は壊滅的な攻撃を受けたにも関わらず、再び1949年頃になると織物産地として復活の兆しを見せ始めます。
米軍占領下ではありましたが、米軍の軍製品のなかから織物材料をかき集め、生産を再開したのです。
その後1972年には本土に復帰し、沖縄の知名度向上にともない、琉球絣の生産も拡大しました。
従来のデザインに加え、人々の要望を取り入れる工夫を重ねながら、手仕事の良さを大切に活動を行なっています。
現在では着物や帯のほかかりゆしウェアやネクタイなども手掛けており、デザインにパソコンを取り入れる若い世代も活躍しています。
琉球絣の特徴
沖縄には琉球絣だけでなく、さまざまな織物が生産されています。
伝統的技法で生産されている琉球絣には、沖縄県の他の織物と共通する内容があるのは興味深い点です。
しかし、独自性を貫いている部分もあり、知っておくと琉球絣が見分けられるようになるでしょう。
御絵図帳をもとに組み合わせる絣柄
琉球絣には、およそ600種類以上の柄があります。
この柄は、琉球王府時代に作成された御絵図帳(みえずちょう)から選んだ柄を組み合わせて作られたものです。
御絵図帳とは、琉球王朝時代に王族などの身分の高い人達が絣織物の発注の際に参照したもので、当時の御絵図師が製作しました。
図柄はどれもが植物や動物、また生活用品などをモチーフにして図案化されており、琉球の文化や生活に根ざした織物となっています。
中くらいの大きさの幾何学模様は、模様ごとに異なる色を使用するケースも多いようです。
また御絵図帳は、琉球絣だけでなく沖縄県内の他の織物産地でも利用しており、沖縄の織物にとってなくてはならないものと言えるでしょう。
豊富なカラーバリエーション
絣は日本全国に産地がありますが、藍染のイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。
しかし、琉球絣は琉球藍だけではなく沖縄に自生している植物を染料として使用する草木染めの手法が取り入れられています。
そのため、カラーバリエーションが豊富なのが特徴です。
また、赤色がかった琉球藍は伝統的な色合いを醸し出しており、日本本土で一般的に作られている藍染とは微妙に色味が異なっています。
さらに、草木染めだけでなく化学染料も用いられるようになってからは、より一層多彩な色を用いた織物が作られるようになりました。
大正〜昭和初期までは主に木綿を琉球藍で染めた紺地の白絣でしたが、現在では90%以上が絹の生地になっています。
効率よく生産する完全分業制
琉球絣を仕上げるまでの行程は、およそ16〜20工程が必要です。
琉球絣の生産はすべて手作業でおこなわれていますが、それぞれの工程には専門の職人がおり、完全分業制が導入されているので高い作業効率を誇ります。
そのため実に年間3000反以上もの反物を製作しおり、この生産量は伝統工芸指定の織物のなかでは圧倒的な流通量です。
また流通の方法にも特徴があり、組合主導だけでなく機屋が卸売をおこなう「卸し」が可能なため価格競争が発生しています。
結果として高品質の製品を手頃な価格で購入できるようになりました。
初夏や初秋に向く軽やかな着心地
琉球絣は、軽やかな着心地が特徴です。
以前は綿織物が中心でしたが、現在はほとんどが絹織物となっています。
今はこの絹織物である「壁上布」が琉球絣の定番です。
上布は一般的には高級な麻の織物を指しますが、壁上布は100%絹糸で作られているので、朝の涼しげな風合いに加え絹の美しい透け感を併せ持っています。
平織りでさらりとしたかろやかな着心地となっていて、汗をかいても張り付きません。
そのため、初夏から残暑の厳しい初秋に着用する単衣仕立てに向いている生地と言えるでしょう。
琉球絣の魅力は独特の絣柄
柄の名前 | 示しているもの | 意味や特徴 |
トウイグワー | 二羽の小鳥 | 神様の使い |
インヌフィサー | 犬の足跡 | |
ビックー | 鼈甲 | 長寿祈願 |
イチチマルグムー | 5つの丸い雲 | 神様を運ぶ乗り物 |
ブリブサー | 夜空の群星 | |
ミミチキトーニー | 取っ手付きの餌箱 | |
カキジュー | 鍋などを吊るしてかけるもの | 本土の流水に似ている |
沖縄の着物といえば紅型をイメージする方も多いでしょう。
紅型は、中国や日本の影響を受けているのに対し、絣柄はほとんどが琉球独自のデザインなのが特徴です。
柄は暮らしのなかから生まれたモチーフが多く、琉球の方言が名称になっています。
「カキジュー」は本土では流水紋と呼ばれていますが、琉球絣では独自の意味が込められています。
また、御絵図帳に記載してあるが色にきまりはなく、同じ名称でも異なるデザインになっているケースもあるようです。
琉球絣の製造工程
琉球絣の製造工程は、先染め平織りの絹織物のほか、染色工程も伝統的工芸品の要件になっています。
作業工程は大別すると以下の4つです。
- 種糸とり、絣くくり(絣括加工)
- 染色
- 柄合せ
- 製織
また、経糸と緯糸は別々に扱うなど、作業の効率化とミスを防ぐ工夫も取り入れているのが特徴です。
種糸とり・絣くくり(絣括加工)
琉球絣の製造工程の1つ目は、絣括加工である種糸とりと絣括りです。
まずは、御絵図帳をもとにデザインを書き起こし、独自の定規で括る場所に印をつけます。
あらかじめ糸は束にしてから糊付けして種糸を作り扱いやすくしておき、絣括りをします。
元々の琉球絣は手結式と言われる織る人の感性による技法でしたが、明治の終わり頃からはより複雑な技法である絵図式が伝えられました。
現在は伝統的工芸品の要件である、緯糸は絵図式・経糸は真芯掛け(ましんかけ)を手くくり・手擦り込みでおこなっています。
絵図式とは、先にデザインを考案して柄単位でくくる方法です。
これは緯糸でおこなうもので、専用の絵図台に種糸を反復させながら柄の幅に張り、柄の部分だけを救って塗りつぶして印付けをします。
経糸は、真芯掛けです。
絣の位置をずらしてからくくる方法であり、枷糸(かせいと)を吊り下げておこなう手法となっています。
染色
次は染色の工程です。
染める際には、括りの過程で用いた絣の糊を一旦落とす作業から始まります。
染色に利用される染料は主に琉球藍ですが、これ以外にもテチカ・グール(サルトリイバラ)・福木などの沖縄に自生する植物が用いられています。
また、自然の染料だけでなく草木染めの媒染剤を変えたり化学染料を導入したりして、色数を増やしています。
テチカ・グール(サルトリイバラ)・福木などの沖縄の植物で絣を染める際には、鍋染がおこなわれてきました。
しかし、現在は化学染料も多く用いられるため、現在は染色機を導入している工房も多くなっています。
本来は草木染めが中心で藍染が一般的でしたが、さまざまな化学染料などを積極的に取り入れて色数を増やし新しい表現が可能となりました。
柄合せ
染色の工程が終わったあとは、柄合わせです。
これは、括りの際に括られた糸を再度ほどいて図案通りに整える作業です。
染色工程を経た糸を、経糸は絣糸と地糸を織るときと同じように割り込んでから巻きとり、綜絖かけをおこないます。
まず、作業中の絣模様のズレを防ぎ、糸を扱いやすくするために経糸に糊付けします。
その後、経糸の地糸と絣糸を同時に巻きながら「ブーブー」と呼ばれるちぎり箱に巻いていきます。
この作業は、糸のもつれやゆるみを防ぐために必要な過程です。
巻き終わったら左端から順序よくすくい、緯糸が通りやすいように割竹を用いて、織るときに経糸を上下させる綜絖にかけます。
琉球絣はすべての工程が手作業ですが、動力式の巻き取り機の導入など、作業の省力化をおこなっています。
製織
ここまでが完了すると、いよいよ織りの工程です。
琉球絣は手投げ杼に緯糸をセットして、絣の柄を合わせながら木製の高機(たかはた)により織りあげていきます。
絣の織り作業は、織り進める過程のなかで絣の柄を1つ1つ合わせていかなければいけないため、非常に神経を使う作業です。
しかし、琉球絣は様々な柄を組み合わせて図案化していますがずれが生じにくいデザイン(柄のサイズを大きめ)に設計されています。
また、絵図式で染めることでリズミカルに作業できるようになっています。
織りあがったあとは、水洗いして糊を落とし、幅だしをして完成です。
琉球絣は「手結い」とも呼ばれているように織り子の手加減で風合いに変化が生じますが、そこはご愛嬌として受け入れられています。
琉球絣から派生した織物
琉球絣は絣織物の原点です。
また、産地である南風原町では、従来の琉球絣だけではなく新たな織物も誕生しています。
大正3年には、熊本県から金森一六氏を招き、ヤシラミ花織や斜文織・ロートン織りなどの技術向上に成功しました。
南風原花織
南風原花織とは、浮き織(花織)の色糸を刺繍のように差し込んで織る、立体感が特徴の織物です。
親から伝わった技法と、大正時代の金森一六氏の指導によって確立しました。
通常の花織は裏面に糸を渡して制作されますが、南風原花織は裏面の糸が見えない両面使いができる製品が主流になっています。
両面使いできるため、帯地などに人気の織物です。
染料は、琉球絣と同じく県内で採取される琉球藍や福木・テカチ染などの植物染料や、化学染料が使用されています。
南風原花織は、聞き取り調査やさまざまな分析の結果、100年以上の歴史のある織物であると認められました。
そして、平成29年1月に新たに伝統的工芸品の指定を受けています。
琉球壁上布
琉球壁上布とは、太糸の強撚糸に甘撚りの細糸が絡みついている壁糸を、緯糸に使った絹織物です。
絹糸を用いていながら、麻のようなシャリ感があるのが特徴です。
太糸と細糸2本の糸を組み合わせて織られるのですが、この糸は太糸に細糸がスパイラル状に絡みつき糸自身に凹凸が生まれています。
この特殊な糸が絹織物でありながら、まるで土地壁のような独特の食感を生み出すのです。
一般的に、上布とは麻織物を指していますが、壁上布は100%絹織物です。
琉球壁上布は麻織物のようなシャリ感とザラザラした土地壁のような肌触りのため、壁上布との名称となりました。
琉球絣よりも透け感があり肌に密着しない夏着物向きに織られた手織り紬で、亜熱帯気候の沖縄ならではの織物と言えるでしょう。
まとめ
琉球絣とは、沖縄県南風原町で生産されている絹織物です。
平成29年1月に新たに伝統的工芸品の指定を受けました。
琉球王朝の交易によりインドから伝わった技法で、やがて全国へと広まった経緯により、絣織物の原点と言われています。
琉球絣には600以上の柄がありますが、独特の絣文様は暮らしに根差したものが多く、琉球絣の特徴です。
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